目の前には見知らぬ美女が居た。 黒く長い、整えられた巻き毛。白い肌。ほんのり紅をさした唇。何と言っても宝石の様に美しい青い瞳。 先ほどの少女とはまるで別人の様だ。 ベルルは大きな瞳をパチパチと二度ほど瞬きして、ニコリと口元に弧を描いた。 「……どう、旦那様?」 僕に顔を近づけ微笑むその少女に、僕は慌ててしまって思わず立ち上がる。 しかも魔王の娘とか、あのみすぼらしい姿からのこのギャップ。 「ああ……よ、よく……できている」 「うふふ、やったわ。旦那様に褒められたわ」 くるりとドレスをなびかせ、無邪気に笑っている。 このように美しい少女だとは思わなかった。 僕はゴホンと咳払いをすると、ベルルの前にちゃんと立って、彼女の顔をしっかりと見た。 やはり若く美しく、どこか無垢であどけない。 僕がベルルに、欲しいものは無いかと聞くと、彼女は首をかしげた。そして、クスクスと口に手を当て笑う。 「欲しいものなんて、特に無いわ。だって、あの地下の牢屋から出られたんですもの。私、ずっとお祈りしていたの。いつか、誰かが私を、ここから出してくれますようにって」 あんな暗い場所に閉じ込められていた、哀れな娘だ。ただ、魔王の娘であったと言うだけで。 それなのに、こんなに明るく振る舞えるのは何でだろう。 「グラシスの館へ……ようこそ、ベルル」 僕は少しだけ微笑んでそう言った。
PR